税務署への届出
クリニックを開業すると、税務署への手続きも必要です。
必ず提出しなければならないもの・提出するとお得なもの・必要に応じて提出するものがあります。
また、それぞれ届出期限もありますので、なるべく速やかに、必要な書類はまとめて提出しておくことをお勧めします。
主な提出書類は以下の通りです。
● 開業届
● 給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書
● 所得税の青色申告承認申請書
● 青色事業専従者給与に関する届出書
● 所得税のたな卸の評価方法・減価償却資産の償却方法の届出書
● 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書
それぞれの手続きについて、ひとつずつ解説していきます。
開業届
開業届とは、正確に言うと、個人事業の開業届出という手続きのことを指します。
新たに事業を開始したときから1ヶ月以内に納税地を管轄する税務署に提出します。
提出時に、本人確認書類の提示かコピーの添付が必要になります。
申請書にはマイナンバーを記載する欄がありますので、マイナンバー通知書やマイナンバーカードを用意しておきましょう。
また、届出書の提出時に税務署が印鑑を押しますが、その印鑑が押された開業届のコピーを受け取っておきましょう。
口座を開設する際に事業を営んでいることを証明する際の書類の一つとして役立ちます。
給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書
従業員を雇って給与の支払をする事業所が提出しなければならない書類です。
給与支払事務所を開設してから1か月以内に提出します。
所得税の青色申告承認申請書
青色申告の承認を受ける際に必用な申請手続きです。
確定申告には白色申告と青色申告があります。
ここでは極簡便に、青色申告の方が手間がかかると思ってください。
ただし、手間がかかる分、青色申告には特典があります。
基本的には所得金額から10万円を控除することができるというものですが、複式簿記による記帳や決算書類(貸借対照表及び損益計算書)を作成して確定申告時に貼付すれば、55万円の控除を受けることができます。さらに電子帳簿保存を行い、e-Taxを使った電子申告・納税をすれば55万円の控除額が65万円の控除額になります。
たとえ、複式簿記や決算書類の作成、電子申告・納税は、面倒そうで嫌だなということであっても、1枚書類を提出するだけで、白色申告とほぼ変わらない手間で青色申告の場合には10万円の控除が受けられるわけですから、開業届と一緒にとりあえず申請をしておくことをお勧めします。
これ以外にも、青色申告には、青色事業専従者給与の制度を使うことができます。詳しくは、青色事業専従者給与の項目をご参照ください。
提出期限は、最初に青色申告をしようとする年の3月15日までです。
ただし、1月16日以後に開業した方に関しては、その事業開始から2か月以内という猶予があります。
青色事業専従者給与に関する届出書
青色事業専従者給与とは、とても簡単に言うと、個人事業を手伝ってくれる家族や親族への給与のことです。
原則として、生計を一にする家族や親族への給与は、必要経費にすることができませんが、家族や親族が青色事業専従者とみなされれば、全額経費として計上することができ、その分節税になるというわけです。
白色申告にも「専従者控除」という制度がありますが、こちらは配偶者で86万円、その他親族で50万円といったように、一定の控除しか受けることができず、全額経費となる青色事業専従者給与よりも節税効果は落ちます。
青色事業専従者とみなされるには、以下の通り要件があります。
● 青色事業専従者給与に関する届出がなされていること。
● 生計を一にする配偶者や15歳以上の親族であること
● 年間で6ヶ月以上、その事業に従事していること
また、青色事業専従者に支払う給与の額も適正なものでなければなりません。
一般的には他の従業員と同じ水準ということになります。
また、配偶者が共働きで他に本業がある場合は基本的に青色事業専従者とはみなされません。
そして、給与額によっては配偶者控除を使った方がお得になる可能性もあります。
配偶者控除は、納税者本人の所得金額が900万円以下で控除額が38万円。所得金額が上がるにつれて控除額が下がり、1000万円を超えると配偶者控除は使えなくなります。
医師の給与水準から考えると、青色事業専従者給与を利用することが一般的だとは思いますが、青色事業専従者給与を利用するのか、給与額をいくらに設定するのかは、税理士と相談して決めるのが無難だと考えます。
所得税のたな卸の評価方法・減価償却資産の償却方法の届出書
【棚卸資産について】
棚卸資産とは、簡単にいうと「在庫」のことです。
クリニックでいれば仕入れたけど使わずじまいの薬品などのことですね。
さて、利益(ここでは売上総利益)の計算は、ごく簡単に
売上げ−売上原価(仕入れ値)
によって導き出されます。
それではその年の仕入れ値はどのように計算されるでしょうか。
クリニックでいえば
年初の医薬品材料+その年1年間に仕入れた医薬品材料−年末の医薬品材料(在庫)
によって導き出されるでしょう。
ところで、節税という面から考えると、利益は少なく計算された方が税金が少なくてすみます。
利益が少なく計算されるには、売上原価が高く算出されればよいわけです。
売上原価が高く算出されるには、年末の医薬品材料(在庫)の評価額が低く済めばよいわけです。
この棚卸資産=在庫の評価方法は、原価法と低価法に分かれ、原価法ではさらに5つに分かれております。
税務署に所得税のたな卸の評価方法の届出書を出さなければ、原価法における最終仕入原価法しか選択することができません。
要するに、節税をするための評価方法の選択肢がとても狭まってしまうということになります。
【減価償却について】
減価償却資産とは、とても簡単にいうと年月を経ることに劣化や性能の低下によりその価値が減っていくとみなされた固定資産のことです。
訪問診療では、業務用車両やポータブルのレントゲン撮影装置等の医療器具がこれに当たります。
そして減価償却とは、そのようにみなされた固定資産については、その年に一度に経費として計上するのではなく、毎年一定額や一定の割合で分割して経費に計上しましょうというルールのことです。
なぜこんなルールがあるのかというと、例えば、ある事業所で1000万円の設備を整えたとして、それを一度にその年に経費に盛り込んだところ、それまで毎年黒字計上をしていたのに、赤字計上となってしまったことで、銀行から受けていた融資が打ち切られてしまった、という事態を避けるための仕組みです。
1000万円のお買い物は、それ以降、利益を継続的に生み出す手段でもあるわけですから、正確に経費や利益を計上していきましょうよ、というルールになります。
さて、先ほど、減却償却というルールにおいては、毎年一定額や一定の割合で分割して経費に計上していきますという説明をしました。
この一定額で償却するのか、一定の割合で償却するのかという減価償却の方法の選択肢を広げるための届出が「減価償却資産の償却方法の届出書」というわけです。
どの選択をとるか否かはその時の状況によりますが、とれる選択肢が多いことは良いことですよね。
「所得税のたな卸の評価方法・減価償却資産の償却方法の届出書」は、棚卸業務や減価償却において、有利な選択肢を増やすための届出ということを覚えておき、専門的なことは税理士と相談して進めていけばよいと思います。
ちなみに、青色申告の特典のひとつとして、「中小企業者等の少額減価償却資産の損金算入の特例」というものがあります。
先ほど、説明したとおり、減却償却とは、減価償却資産とみなされた固定資産に関しては、毎年分割して経費計上していくルールでした。
そして、それは巨額の固定資産取得費によって、赤字計上を防止するという意味があるということでしたが、減価償却資産を一度に経費計上できれば、それだけ利益をおさえることができるので、節税につながるとも考えられます。
そこで、少額減価償却資産の特例において、30万円未満の減価償却資産については、年300万円を上限にまとめて経費に計上することができることが節税上、魅力的な特典になるというわけです。
棚卸業務や減価償却については、高度な専門性が必要とされますので、必ず税理士と相談をしながら進めていく必要があると考えます。
源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書
源泉徴収とは、とても簡単にいうと、従業員の給与から税金や保険料を会社や個人事業主が天引きをして、会社や個人事業主が変わりに各所に納付する仕組みのことです。
この源泉徴収において、天引きされる所得税のことを源泉所得税といい、天引きした所得税は、会社がまとめて税務署に納めます。
この源泉所得税の納付期限は、給与を支給した月の翌月の10日と決められております。
例えば、5月に給与を支払った場合は、6月10日までにそこから天引きした所得税を税務署に納めなければならないということです。
このように、源泉所得税は、原則として毎月納付であるわけですが、給与を支払う従業員が常時10人未満の事業所の場合、年2回に分けてまとめて納付できる特例制度があります。
これにより1月-6月分を7月10日までに、7月-12月分を1月20日までに納めればよいことになります。
厳密にいうと、納期の特例が認められるのは、従業員給与や退職金、士業などへの報酬に対する源泉所得税のみですが、ややこしくなるので割愛します。
「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」は、この特例を受けるために税務署に提出する書類です。
提出した日の翌月に支給する給与から特例が適用されます。
9月に申請書を提出した場合は、10月に支払われる給与の源泉所得税の納付から適用ということですね。
毎月納付が半年に1回の納付になる分、事務負担は軽減されますが、1回の納付金額が大きくなるので、資金繰りなどに注意が必要です。
ちなみに、従業員が常時10人以上になった場合は、特例の対象外になりますので、それまで特例を受けていた場合は、「源泉所得税の納期の特例の要件に該当しなくなったことの届出書」を提出しなければなりません。
法人設立届
法人設立届とは、正式には、「内国普通法人等の設立の届出」のことです。
医療法人で訪問診療を開業をした場合、あるいは個人事業だった訪問診療が法人成りした場合に届出が必要になります。
期限は、設立から2か月以内です。
例外として届出が不要なのは、一般財団法人や非営利型の一般社団法人です。
一般的な添付書類は、以下の通りです。
● 定款の写し
● 履歴事項全部証明書(登記簿謄本)
● 出資者の名簿
● 設立時の貸借対照表
● 設立趣意書