診療所開設届出とは
医師免許を持っている医師はいつでもどこでも診療所を開設することができます。正確にいうと、医師免許取得後に前期研修を経た医師です。いわゆる自由開業医制です。
つまり、診療所を開設するときに許可を求める必要はないということです。
ただし、開設した場合には開設の届出が必要になります。
医療法第8条では以下のように定められています。
「臨床研修等修了医師、臨床研修等修了歯科医師又は助産師が診療所又は助産所を開設したときは、開設後十日以内に、診療所又は助産所の所在地の都道府県知事に届け出なければならない」
ここで「都道府県知事に届け出なければならない」とは、実務上は、都道府県知事から権限委任を受けた市区町村長または保健所ということになります。
手続きの流れ
手続きの流れは以下の通りです。
@ 保健所との事前相談
A 施設完成
B 開設
C 開設届
D 実査
@保健所との事前相談
診療所には、医療法施行規則第16条に規定された構造設備基準があります。
この設備基準に満たない物件を契約したり、内装工事を始めてしまうと取り返しのつかないことになってしまいます。
必ず工事着工前の図面を持参して、保健所の担当者と事前相談をすることが必要です。
管轄する保健所によっても、指導されるところが細かく違ってくる場合がありますので、一度診療所を開設したことがあるという方でも、事前相談のプロセスは必須です。
事前相談は、電話での予約が必要です。
持参する図面は、各室の用途や寸法、面積を記されたものを準備します。
A 施設完成
保健所との事前相談に基づいて、診療所を設ける物件が構造設備基準をクリアすることを確認できたら、必要に応じて内装工事を行い、施設を完成させます。
B 開設
いよいよ開設の日を迎えます。月の10日前後に開設届を提出できるように開設することが大切です。
なぜなら保険医療機関指定申請の締め切り日が毎月10〜14日前後に設置されているからです。
この締め切りを逃すと、指定を受けられるのが再来月になってしまいます。
実際に診療を開始できる日程が大幅にずれこむのを防ぐためにも、開設と開設届、保険医療機関指定申請のスケジューリングは極めて重要です。
※改めて、保険医療機関指定申請の記事で説明しております。
C 開設届
開設後10日以内に管轄の保健所に2部提出します。
1部は受付印の捺印をしてもらい副本として実査時に返却してもらいます。この副本は保険医療機関指定申請時に添付書類として必要になります。
また、提出時に、「実査」の日程を調整します。
D 実査
保健所職員による検査のことです。
保健所職員が実際に現地を訪問し、届出内容と相違がないかを確認します。
注意としては、実地検査を受ける時点で、診療が開始できる状態にしておくことです。
つまり、医療機器や診療机、カーテン等の備品も含め、施設が完成されている必要があります。
届出内容と相違がなく、書類にも不備がない場合に、開設届の副本がその場で交付されます。
私の経験する限り、事前相談において保健所職員と相談・確認したことを踏まえて構造設備を整え、開設届提出時にも保健所職員と的確に話し合いが行えていれば、実査においてまず、開設が不可能になるほどの指導が入ることはありません。
届出書類
保健所に提出する届け出書類は以下の通りです。
@ 診療所開設届
A 管理者の臨床研修等終了登録証の写し及び免許証の写し
B 管理者の職歴書
C 診療に従事する医師の臨床研修等終了登録証の写し及び免許証の写し
D 土地及び建物の登記事項証明書
E 土地又は建物の賃貸借契約書の写し
F 敷地の平面図
G 敷地周囲の見取図
H 建物の平面図
I 案内図
(J エックス線診療室放射線防護図)
※ポータブルレントゲン機器を備えつける場合は、エックス線装置備付届も必要
それでは、必要書類作成の際のそれぞれの注意点についてみていきます。診療所開設届はこちらに書式がありますが、それ以外の書類はとくにフォーマットがありませんので、必要事項をもれなく記載したものを作成することになります。
@ 診療所開設届
【診療所の名称について】
・診療所の名称は、近隣の診療所と類似してはいけません。
・どこまでが類似かというのは、保健所の判断になります。
【診療科名について】
医師でさえあれば、麻酔科以外、何科を標榜するか特に制限はありません。
極論を言えば、内科医の経験しかない医師が、精神科で開業することも法律上問題はありません。
標榜する科目数についても制限はありません。過去に、医師1人あたり原則2科目までにする法改正の審議がなされたことはありましたが実際に制限が設けられることはありませんでした。
私が所属していたクリニックでも、開業当初、消化器内科の医師が1人しかいませんでしたが、外科や整形外科、皮膚科、精神科を科目として標榜しておりました。
ただし、当然のことではありますが、整形外科と標榜していれば、整形外科的な医療をしてくれるかもしれないと相談者の方は思うわけなので、整形外科の医療に関する相談が舞い込んでくる可能性はあります。
トリガーポイント注射や関節腔内注射ができるのか。骨密度を改善するための注射は打てるのか。脱臼した肩関節を元に戻す施術までするのか。さすがに、整形外科の専門医ではないので、ブロック注射までは難しいでしょうが、整形外科を標ぼうする以上、最低限の整形外科的処置ができた方が良いでしょう。
【建築確認について】
建築確認とは、診療所を設立する前に、建物が建築基準法に適合しているかを確認することです。
建築確認は、用途によって、申請しなければならないかが分かれます。
病院(病床数20以上)と有床診療所(1-19床)は、特殊建築物とみなされます。
入院用の病床をもっていない診療所(つまり無床診療所)は、一般建築物です。新築物件での開設ではなく、ビルのテナント賃貸での開設の場合、建築確認申請は必要ありません。
〈コラム 建築確認〉もご参照ください。
A 管理者の臨床研修等終了登録証の写し及び免許証の写し
原本が必要になります。
平成16年4月1日以前に医師免許を取得し、医師登録した医師は、臨床研修を修了した者とみなされます。
ちなみに、病院から臨床研修終了証が交付されても、医籍には臨床研修を修了したことが登録されませんので、臨床研修終了後、「医師臨床研修修了登録証申請書」を病院から受取次第、速やかに申請します。
申請をし、医籍に臨床研修を修了した旨登録されると、「医師臨床研修修了証」が交付されます。
申請先は、臨床研修病院等の所在地を管轄する地方厚生局です。
B 管理者の職歴書
現住所・氏名・生年月日・最終学歴及び職歴を記載し、押印します。
職歴は、就職・退職を明確に記載します。
最期の行は「○○診療所の管理者となる」で終わるようにします。○○診療所とは、開設する診療所名です。
C 診療に従事する医師の臨床研修等終了登録証の写し及び免許証の写し
原本を持っていきます。
D 土地及び建物の登記事項証明書
発効後6か月以内のものを添付します。不動産屋さんに頼むこともありますが、オンラインで簡単に取り寄せることもできます。
E 土地又は建物の賃貸借契約書の写し
テナントを借りて開業をするなど、賃貸をする場合に必要です。
原本を持っていきます。
転貸(たとえば不動産の所有者が管理会社に貸して、管理会社が医師に貸すなど)の場合は、所有者の承諾書が必要になります。
F 敷地の平面図
ビルのテナントを借りて開業する場合、利用するフロア全体の平面図が必要になります。
G 敷地周囲の見取図
診療所周辺の案内図として用いることができるように、周辺の道路と建物位置関係がわかるように作成します。
H 建物の平面図
縮尺1/100以上で、設備や各部屋の用途を明示します。機器類の配置、外気開放部の位置や面積あるいは換気装置の位置、手洗い設備の位置、消毒設備の位置などを記入するよう指示されることが多いです。
I 案内図
こちらはとりわけ、最寄りの公共交通機関などからの案内図になります。
構造設備について
診療所の構造設備については、医療法や医療法施行規則の他、保健所の指導基準があります。
以下は、東京都における基準です。訪問診療クリニックに関連する項目を抜粋しました。最低限以下の項目を頭の中に入れて、保健所との相談に行くとスムーズです。
主な指導基準
建物の構造概要及び平面図
@ 診療所は、他の施設と機能的かつ物理的に明確に区画されていること
・ 自宅兼診療所の場合
→出入り口が別になっており、廊下などを共有することがないように区画されていること
・ 2階以上の建物で診療所と他の事務所が併設されている場合で、診療所が数階にわたりかつその最上階に事務所がある場合
→診療所と事務所の出入り口が別にあること。専用会談などが別に設けられて明確に区画されていること
・ 雑居ビルなどの場合
→ビルの階段、廊下等と診療所が明確に区画されていること。他の施設との区画は、原則として天井まで仕切りがあること
A 医療機関の各施設は、原則として構造上の一体性を保つこと
・ 雑居ビル等の数階にわたって開設される場合
→ 医療施設の専用経路(専用階段・専用エレベーター等)を確保すること
B 内部構造は原則として必要な各室が独立していること
・ 廊下と診察室が明確に区画されていること
診察室
@ 1室で多くの診療科を担当することは好ましくない
A 小児科については、単独の診察室を設けることが望ましい。
B 他の室と明確に区別されていること
→診察室と待合室を明確に区画し、診察室が他の室の通路となるような構造でないこと。
C 診察室と処置室を兼用する場合は、処置室として使用する部分をカーテン等で区画する事が望ましい
D 診察室は医師1人についき1室が望ましい
E 給水設備があることが望ましい
診察室等の面積の標準
@ 診察室 → 9.9u以上
A 待合室 → 3.3u以上
検査室
@ 臨床検査室は、他の室と明確に区画されていること
A 血液・尿・喀痰・糞便等について、通常行われる臨床検査に必要な設備が設けられていること
建築確認について
新築物件での開設については、建築確認の後に行うこと
医療法及び医療法施行規則における構造設備に関する基準(無床診療所にとりわけ関係するもの)
院内掲示義務(医療法第14条の2)
以下の項目について診療所内に見やすいよう掲示しなければならない
@ 管理者氏名
A 診療に従事する医師の氏名
B 医師の診療日及び診療時間
清潔保持義務(医療法第20条)
清潔を保持するものとし、その構造設備は、衛生上、防火上及び保安上安全と認められるようなものでなければならない
消火設備等(医療法施行規則第16条第1項第16号)
消火用の機械又は器具を備えること
※ 消火用の機械又は器具とは、消化器・自動火災報知設備・消防機関へ通報する火災報知設備等です。
延べ床面積300u以上のテナントビルには消化器の設置義務がありますので、備え付けられていることが多いです。
ちなみに、消防法上では、消防用設備津設置基準が定められております。
無床診療所については、以下の通りです。
・ 消化器 → 延面積150u以上
・ スプリンクラー設備 → 延面積6000u以上
・ 自動火災報知設備 → 延面積300u以上
・ 消防機関へ通報する火災報知設備 → 延面積500u以上
コラム 建築確認及び建物にまつわる法のあれこれ
診療所開設において建物に関して守らなければならない法律が以下の通り複数あります。
・医療法
・医療法施行規則
・建築基準法
・消防法
・バリアフリー法
・都市条例(まちづくり条例)
例えば建築確認は建築基準法に基づく申請です。
対象の建物が建築基準法の基準に適合しているかを確認する作業になります。
訪問診療クリニックの多くは無床診療所で開設する場合が多いと思います。
その場合、テナントビルに入居する場合、建築確認は必要ありません。
無床診療所は、特殊建築物ではないからです。
建築確認が必要となるのは、建築物を新築、増築、大規模修繕、大規模模様替え、特殊建築物への用途変更をしようとする場合です。
また、建築確認は、規模がどれだけ大きくても、特殊建築物でない限り必要ありません。
例えば、10階建てビルをすべて貸し切ってクリニックを開設したとしても、その規模によって建築確認が必要になることはありません。
一方、1床でも入院用のベッドを持つと、建築確認に神経をとがらせなくてはならなくなります。
ただし、この場合のベッドはあくまでも入院用のベッドですので、点滴や心電図検査のためのベッドは入りません。
また、建築基準法では、定期報告制度というものがあります。いわゆる12条点検といわれるものです。
換気・排煙などの建築設備や防火設備、昇降機などに対して、建築基準法に適合しているか定期的に報告する制度です。
これも特殊建築物でない限り考える必要がありません。
このように、無床診療所の開設においては、法律の規制がその他の場合と比べてそれほど強くはありません。
逆をいえば、有床診療所への用途変更を図る場合、物件を新築してクリニックを建てる場合などは、様々な法令が絡んできますので、医療機関開設に精通した建築・設計のプロに相談することをおすすめします。